― なぁ雅行 ― |
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「なぁ雅行・・・・・俺の前じゃ 泣けない?」 目の前に尾栗の 思いがけず真剣な顔 「俺あいつじゃないからさ おまえが強くないの知ってる それでもダメ? 俺の前でも泣けない?」 体中が痺れていく気がした 熱くて痛くてせつなくて 痺れた体には力が入らなくて声までが震える 「・・・・・おぐ・・」 答えられない 自分には何も応えることができない うつむいて小さくかぶりをふって それだけで精一杯で そんな自分を尾栗がどんな目で見ているのかも分からなかった 「なぁ雅行・・・」 もう一度やわらかな声が降ってくる 名前を呼ばれて そのまま抱きすくめられた 「見てないから泣けよ」 そっと背と腰にまわされた腕が暖かくて優しくて 「大丈夫。誰も見てないから。俺からも見えないから」 いつもより少しだけトーンが抑えられて、でもとても耳に慣れた声 「なぁ雅行・・・?」 語尾が少しだけ上がる それがせつなくて、何故だかそれがとても痛くて ―――嗚咽 初めて涙がこみあげてきた 次々にあふれだす 「・・・・っ・・・ぇ」 名前を呼びたい 呼ばれるだけじゃなく なのに声にならない 言葉にすることができない 本当に呼びたい名前は ここにいない人のものだから・・・ 尾栗の背に腕をまわし 肩に顔を埋める 「俺さぁ、ずっとおまえを見てたんだぜ?」 耳元で囁かれて ますます悲しくなる 呼べない名前のかわりに 指先に力を込めてすがった 「これでさ・・・ここでなら泣けるだろ?」 少しだけためらって それから小さくうなづいた こたえられなくてごめん 何度も胸のうちでだけそう繰り返す 「なぁ雅行」 こんなにも名前を呼ばれているのに せつなさは増していくばかりで いっそ耳でも心でも おかしくなってしまえばいいのに 狂ってしまえない自分が悲しくて 泣いた |
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| ここはどこで今はいつ? どうやらマツにふられた後らしいです。 |